国際歯科学士会
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三大事業 冬期学会

開催報告 2002年度冬期学会
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■企画要旨

 我国にインプラントが紹介され、もう30数年が経過した。多くの基礎研究や臨床症例も実施され、本法の信頼性も非常に向上し現在我々の日常臨床に根をはやしている。

 今回は、インプラントの信頼性にスポットライトを当て、口腔外科学的、補綴学的両見地から検討を加え、また日常臨床を多く取り扱っているフェロー諸氏から発表者を公募し、みなさまの臨床のヒントになればと思い企画しました。

(事業運営委員会委員長・和泉 一清)
挨拶する栗山会長
挨拶する栗山会長
受付(長谷川マスターとともに)
受付(長谷川マスターとともに)

■総括

講演I-1「教育講演」

「歯科インプラントの適用拡大と
 その応用」
講師・齊藤 力先生 座長・佐々木高憲フェロー

新潟大学大学院  齊藤  力
 教授

 歯科インプラントは、歯の喪失ないし欠損に伴う咀嚼機能の回復、審美な形態回復を目的として盛んに応用され、一定の成績が出せるようになった。しかし骨・軟組織などの口腔組織の不足、周囲の解剖学的要因などによりその適用が困難な症例がある。また先天異常や後天的原因により生じた口腔機能低下症例などに歯科インプラントを応用し良好な結果が期待できる。そこで
 A:骨不足ないし骨欠損症例
  1)骨移植(歯槽頂上骨移植術、唇側骨移植術、嵌入型骨移植術、上顎洞挙上術)
  2)骨延長術
  3)神経異動術
  4)骨形成・再建術
 B:顎骨再建症例
 C:歯科矯正治療
 D:顎矯正外科治療
などを応用し、適応拡大に努めている。
 さらに、創傷治癒の病理、外科的治療の原則、基本手技の体得、骨組織・軟組織の性質・特徴の理解、局所解剖の熟知が治療成績のさらなる向上につながる。将来、組織工学的手法によって、歯、顎骨および歯周組織をつくることが可能になるまでは、歯科インプラントは口腔機能と形態の修復・再建・構築のための重要な選択肢の一つである。
 骨に対する正確かつ理論的なアプローチとともに、口腔粘膜の培養により、付着歯肉を再生し移植する術式は、インプラントの弱点を補うものとして注目に値した。


講演I-2「教育講演」

「インプラントの成功のグローバルスタンダードをベースとした新しいトレンド」
講師・赤川安正先生 座長・小林義典フェロー
講師・赤川安正先生 座長・小林義典
フェロー

広島大学大学院  赤川 安正
 教授

 オッセオインテグレーションの確立とその技術進歩は、インプラントの適用をさらに拡大しようとしている。インプラント治療の目指すゴールは機能と審美性の回復だけでなく、患者のQOLの向上と定義されるようになってきた。
そのためには、グローバルスタンダードが重要である。1986年のボストン会議から、1998年のトロント会議までに3回の世界的会議で、オッセオインテグレーションをめぐる「我々が知っていること」(歯周靭帯は存在しない、軟組織の介在はダメである。インプラントの微小動揺は150μ以下。150μ以下であれば1回法も可能など)、と「我々が知っていないこと」(分子レベルではわかっていない、インプラント歯周炎のリスクレベルがわからない、インプラントの動揺が150μ以下のコントロールはわかっていない など)を整理した。
現在の成功の基準のグローバルスタンダードは
  1. インプラントは、患者と歯科医の両者が満足する機能的ならびに審美的な上部構造をよく支持している。
  2. インプラントに痛み、不快感、知覚の変化、感染の徴候などがない。
  3. 臨床的に診査するときに、個々の連結されていないインプラントは動揺しない。
  4. 機能下1年以降の経年的なインプラント周囲の垂直的骨吸収は、0,2mm以下である。
とされている。これらの基準に基づいて展開されている新しいインプラントのトレンドとしては、
  1. 補綴主導型で
  2. より審美性に
  3. より多くの症例を
  4. より短い治療期間で
としている。
 これらの概念に基づく実験で、荷重の変化、上部構造の材料の違い、インプラント体の種類の違いなどによるオッセオインテグレーションの変化に関する最新知見が示された。
 また、研究と臨床との同値化の重要性を述べられ、今後の再生の方向性を示された。
 インプラントの成功のグローバルスタンダードをベースとした今後の方向性を明確に示唆されたすばらしい講演であった。今後、インプラントが国民医療の中で支持されるためにも、肝に銘じるべき内容であった。


講演II-1「一般講演」

「各種インプラントの長期経過中(10年以上)
における問題点と対策」
講師・阪本義樹フェロー
講師・阪本義樹
フェロー

阪本 義樹
 名誉会員

 1972年から施工してきた各種の、長期経過中に起こった問題点を検討し、その対策法を示した。各種インプラントという幅の広さと、5年、10年症例はもとより、30年間におよぶインプラントを観察し続けた時間の長さから、インプラントの問題点とその解決法を示した。
 今後予想されるインプラントの問題に対する解決策は、患者の信頼度を得るためには必須の内容であった。



講演II-2「一般講演」

「東洋医学からみたインプラントの活用」
講師・富永正志フェロー
講師・富永正志
フェロー

富永 正志
 フェロー

 刺激に対する生体反応として、神経系と経絡系の反応があり、刺激が弱いと経絡系の反応が起こる。スプリントや義歯によって暫間的に咬み合わせを変える刺激は、痛みを伴なわない弱い刺激と思われ、経絡系の反応が起こる。
 経絡(14経絡)と経穴(361穴)が記号化され(WHO認可)、これらを測定する機器(AMI)も開発されている。AMIを用いて、4つのパラメーターで義歯とインプラントの違いを調べると、インプラントの方が有効であることが示された。
 東洋医学から、インプラントの治療後の客観的評価としてその有効性が示唆された。



講演II-3「一般講演」

「デンタルインプラント・そのBenefitとRisk」
講師・小泉 政幸フェロー
講師・小泉政幸
フェロー

小泉 政幸
 フェロー

 歯科治療が外科的側面を有するため、デンタルインプラントを含む殆どの歯科治療行為にはBenefitとRiskが存在する。歯科医師がこのことを理解することが最も重要である。
 特にデンタルインプラントにおいては、診査・診断が重要であり、CTスキャンが常設されている歯科医院での診療を示した。デンタルインプラントにおけるCTスキャンの有用性とともに、その活用により、診査・診断と術後評価の精度の高さが示された。
 機能性・審美性の向上のためには、診査・診断の精度の高さが重要であることが理解できた。



講演II-4「一般講演」

「歯科インプラントによる顎骨再生と
顎骨保全の意義とその臨床例」
講師・奥寺 元フェロー
講師・奥寺 元
フェロー

奥寺  元
 フェロー

 有床義歯においては、顎骨の吸収は避けられない。歯科インプラントが単に咬み合わせを回復する段階から、顎骨や口腔周囲筋を活性化させ、血液、唾液、リンパ液の循環を向上させて「顎骨の保全と再生」に深く関与していることを症例から示した。また、顎発育期における歯科インプラントの応用に関しても示した。今後のインプラントの評価を向上させるための方向性が示唆された。

まとめ

 「インプラントの信頼性」のテーマのもと、質疑応答では活発な論議がされた。歯科インプラントの信頼性と患者満足度は向上していることが確認された学会であった。
 しかし、客観的な機能評価など、まだ解明されていない事柄が多いのも事実である。今回、赤川教授がグローバルスタンダードをベースとした新しいトレンドを示されたことは特筆に価すると思われる。
患者中心の歯科医療を考えると、その快適性からインプラントの需要は増大すると思われる。今回多くの演者が示されたように、顎骨の再生や誘導に関しては進歩しつつあることが理解でき、今後の方向性が示された。
歯科インプラントがさらに信頼性を得るためには、グローバルスタンダードに基づく大学関係者による研究と臨床家による臨床例の蓄積をおこない同一目線で客観的に評価することが重要と思われる。
(事業運営委員会・上濱  正)

■フェローリポート

リポート II-1

「今後期待されるインプラントのソフトウェア」
佐々木慎一フェロー

千葉県 佐々木慎一
 フェロー

 本年度の冬期学会は、「インプラントの信頼性」について、午前は、教育講演、午後は、4名のI.C.D.フェローによる講演が行われた。どの先生の講演もすばらしく大変勉強になった。
 ところで、私も臨床にインプラントを導入している。私は、大学院在籍中にブローネンマルクインプラントの講習を受けたが臨床にはすぐには導入しなかった。それはなぜかというと大学に在籍していたことでたくさんの失敗例を見たからにほかならない。しかし、一般開業医になった途端、講習会や雑誌で、目を見張るような臨床例ばかり目にするようになった。失敗例を報告する先生はあまりいなから仕方がないか・・・と思いながら、自分の中で今回の冬期学会のテーマである「インプラントの信頼性」が整理できずにいた。そんな折、他院で埋入したサファイヤインプラントを除去しなくてはならなくなった患者さんが来院した。そこで、インプラント治療と他の治療法について公平な立場(一応EBMに基づいて)で患者さんにインフォームド・コンセントし、インフォームド・チョイスさせた。その結果、この患者さんは『入れ歯は動くし、痛いし、噛めないし、邪魔くさくて、とても入れてられない』と言いインプラントを選択した。これは私には驚きであった。こんなに痛い目にあってもまた選択するのか『なぜ・・?』。幸いこの患者さんは、またインプラントを入れることができ、このことがインプラントを導入するきっかけになった。
 インプラント治療の失敗は患者さんを失望させ、ひいては訴訟までも起こしてしまう治療法であるが、インプラント治療について患者さんからの質問あるいは希望が年々増しているのが現状である。このことは、「避けられない治療法」であることを意味する。聴講者でいっぱいの会場風景しかし、日常の臨床に携わって常に思うことは、我々がどんなに慎重に治療を行っても、失敗が起こる可能性を否定することはできないということである。今日インプラントは、多種多様なものがみられ、またそれらに関する情報も氾濫している。大事なことは、我々歯科医が、これらが機能するためのソフトウェア(技術、知識、治療に取り組む真摯な姿勢)を充実し、患者さんを機能的ならびに精神的に満足させることである。このことがある意味において「インプラントの信頼性」を確立させることになるのではないだろうか。



リポート II-2

「今後の発展が楽しみなインプラント」
― 初めて参加した冬期学会 ―
八木浩一フェロー

千葉県 八木浩一
 フェロー

 インプラント治療の最終目標は、従来の「機能と審美性の回復」ということから「患者さんのQOLの向上」と定義されるようになってきたとのことです。これは正にDr.Linkow氏等が提言してきたことが、約30年という時間を経て、市民権を得て、さらに適応拡大されようとしていることと考えられます。今学会の講演に於いても、東洋医学的見地からのインプラントの活用や、インプラント治療による顎骨の保全と再生という美容形成歯科の領域に及ぶ内容に大変衝撃を受けた。また、約30年に亘るインプラント治療の変遷をご自身の経験をもとにご報告をいただけた事例にも感銘を受けた。
 途中石川達也マスター(前会長)のお話にもありましたように、歯科界に於いては、今までに実施して来た事柄は、ほんのわずかであり、未だやり残している事柄がたくさんあるとのことです。現在、混迷化している歯科界を賦活化させる一つの学問として、インプラントの応用は不可欠であり、今後もさらに進歩していくものと思われる。
 但し、小泉先生のご講演にもありましたように、「ほとんどの歯科治療行為にはBenefitに伴うRiskが存在し、それぞれの治療行為が持つBenefitとRiskを理解することが歯科医にとって最も重要であり、その上で、治療効果をいかに継続させるかが本当に大きな課題である」と痛感している先生方も多いものと考える。 インプラントの応用は不可欠と話された石川マスター
 今学会の主旨である「インプラントの信頼性」について、本当に多角的に検証を施された講演会でありましたことを講師の先生方並びに企画・運営スタッフの皆様方に感謝申し上げます。

■懇親会レポート


「親睦を深めた楽しいパーティー」
大金 誠フェロー

大金 誠
 フェロー

挨拶される西連寺マスター
挨拶される西連寺マスター
萬屋フェローと歓談する著者
萬屋フェローと歓談する著者
それぞれご挨拶された江間前事務局長、西連寺マスター、佐藤事務局長
江間前事務局長、佐藤事務局長を
激励する西連寺マスター
 2月15日東京歯科大学血脇ホールにおいて冬期学会が開催された。終了後、水道橋グリーンホテルに会場を移し、懇親会がおこなわれた。予定より少し遅れての開催となった。

 例年通り、各務フェローの名司会で始まった。栗山会長の挨拶、長谷川マスターの乾杯の音頭、そしてしばし歓談の時間がもたれた。各務フェローの名司会のもと、時間どおり進行した。

 ニューマスターとして西連寺・石川両マスターが挨拶され、江間前事務局長へのお礼と今日の学会についての話があった。この後も歓談の合間、司会の巧みな誘導でニューフェローの秋草先生・上田先生の挨拶、五十嵐フェローが実行委員長するインプラント学会の案内、その後北村副会長の報告、福岡大会の告知を兼ねた丹野財務主事、事業運営委員会副委員長の日吉フェロー、定款等検討委員会の生田フェローの話があった。

 中締めとして最後に事務局長の佐藤吉則フェローの冬期学会が無事終了したことへの会員への感謝と5月の福岡大会においても楽しく懇親を深めたいという挨拶で懇親会を終了した。

 この冬期学会と、和気藹々とした懇親会を企画運営してくれた委員の皆様にお礼をいいたいと思います。


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